「いってきまーす。」
のび太は元気に学校に出かける風景です。あいかわらず分厚いめがねにパットしない顔の野比のび太は大好きなねこ型ロボットのおもちゃを鞄に入れて出かけました。あいかわらず朝寝坊ののび太は、「今日も、遅刻だよ」と言って走って出かけました。口には朝ご飯のパンをくわえて、玄関でお母さんが
「のび太―ー、気をつけて行きなさいよ。」
「わかってるって。」・・・ちょうど交差点を曲がろうとしたとき、猛スピードでダンプカーがきました。あっというまに、のび太はダンプカーにはねられてしまいました。救急車で運ばれたのび太は危篤状態でした。体が“ピクリ”ともしません。周りでは病院の先生たちが、一生懸命手当をしていました。廊下で、学校の先生、のび太のお母さん、お父さん、スネオ、ジャイアン、しずかちゃん、みんな心配そうにしています。お父さんとお母さんは泣いていました。ベットに横たわるのび太の手には大好きなねこ型ロボットがしっかりと握りしめられていました。のび太がゆっくりと眼をさましました。
「ドラえもんは?」
のび太はよわよわしい声で言いました。最初に見えたのは、二人のおじさんと一人のおばさんでした、それとなにやら入り口の方で泣いているおじいさんとおばあさんでした。一人のおじさんが言いました。
「のび太―ーー」
おばさんが言いました。
「のび太さん」
のび太は怪訝そうに言いました。どことなく二人のおじさんは、ジャイアンとスネオに似ていたからです。もう一人のおばさんは、しずかちゃん。入り口の横で泣いているおじいさんとおばあさんは、お母さんとお父さんに、似ていたからです。のび太は言いました。
「どうしたの?僕は、あなたは?」
「のび太、俺達だよ。ジャイアンとスネオだよ。しずかちゃんもいるよ。そして、お母さんとお父さんだろ、そうだよな。おまえは、あの事故以来25年もたったからな。おまえは、交通事故でダンプカ―にぶつかって植物人間になってしまって、あれ以来すっと寝っぱなしだったからな。俺たちはもう35歳になったよ。俺(ジャイアン)は結婚して子供も二人いるよ。かわいいぜ。」
スネオが言った。
「僕も、結婚して子供は一人いるよ。」
何がなんだか分からなかったのび太はだんだん、その状況を分かってきた。
「ドラえもんは?」
しずかちゃんが言った。
「のび太さん、今、握りしめているそのねこ型ロボットの事?そのロボット、“ドラえもん”って言うの?」
そばで、お母さんとお父さんが、
「のび太、よく戻って来てくれたな!」
のび太は言った。
「ドラえもんが ドラえもんが・・・」
「なんだか分からないけど、おまえのドラえもんがおまえを生き返らせてくれたのか。」
のび太はやっと分かりかけてきた。どうりで何年たっても小学生から成長しなかった訳だ。
「僕はいったい何歳なんだ?そうか、ジャイアン、スネオと一緒だから35歳なんだ。」
お母さんに言った
「お母さん、歳をとったね。お父さん、心配かけたね。白髪だらけになって・・・でも僕は楽しかったよ。」
横からしずかちゃんがいった。
「あなた、本当にお帰りなさい、これから二人で幸せになろうね。」
のび太が言った。
「え・・・?」
「のび太さんとは、10年前に結婚したの。あなたが必ず眼をさますことを信じて。10年前に、私は天の声を聞いて。そして、のび太さんと結婚する夢をみたわ。天の声は変な丸い顔をしたたぬきみたいな、動物なの。その動物を信じてみようと思ったの。」
空はいつものとおり、真っ青な晴天で、ベットの周りからは笑い声がしはじめた。手に握りしめた、ネコ型ロボットは25年もたってうすよごれていたけど、なぜかいつものドラえもんのようなやさしい顔をして、のび太に話かけているようだった。

「のび太くん・・・勉強しなきゃだめじゃないか」
のび太は誰にも聞こえないような小声で言った。

「ありがとう・・・ドラえもん」

--完

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